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駅を降りると暗闇が明滅していて、スーパーマーケットの建物がカメラのフラッシュでも浴びているように見えた。バスターミナルを照らす、命の消えかけた街頭がひとつ、ちかちかと高速で光の波を放っているのだ。いつもはさして存在感のない灯りが、このときばかりはと声高に、見慣れた世界の様子を変えていた。静寂の中にカタカタ鳴る細かな振動音が耳から離れてくれないように、この特殊な光も建物の白壁から木立の表面へ、やがて空へと伝染して、じわじわと瞳に馴染んでいく。▼高速かつ一定周期の光の明滅という現象は、機械以前の自然界には存在しなかっただろう。この光景に対する警戒心と恍惚の中間めいた感情は、いかにも太古の記憶に根ざしているようなふりをしながら、じつは経験に根ざした思い出のフラッシュバックと、めずらしい光学情報に対する生理的な反射にすぎないのだ。背中に残してきた瀕死の電灯を思いながら歩道を行く。空は紫一色である。
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