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最寄り駅前の商店街は屋根がレンガ色に統一されている。今日、そのレンガとレンガのあいだにぽかりと見事な満月が見えた。あまり情緒があるとは言えない汚れた赤とならんで浮かぶ丸い発光体は、やはり情緒があるとは言えなかった。なんとも見すぼらしい絵に見える。▼道路へ抜けて、今度は白いアパートが満月の付き添いになる。見栄えはするが感動はない。毒にも薬にもならぬ凡庸なアーバン・ムーン。環境音楽に似ている。そうしてさらに歩くと、今度は黒い家と庭の木立が背景に。これは素晴らしい。途端にぴたりと絵が出来た。緑の影、群青の空、白い月。▼世阿弥風に言えば、月の美しさというものはなく、美しい月があるだけだということになろう。けれどもこうしてみると美しい月というものもやはりなく、あるのはただ「月が美しく在る」という按配のみ、とも言えそうではないか。しかし、それでは美しい音があるというのは……。この指摘にはしっぽを巻く。
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