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『ケプラー予想』には一風変わった面白い数学者の伝記が出てくる。その男は、数学者としてそれなりの才能に恵まれたが、後世から見ればさしたる成果を残すことが出来なかった。その理由は、本人さえ自覚していたように、徹底して他人の仕事を調べるのが嫌いだからであった。彼はいつも車輪を再発明していた。それなりの証明を行い、それなりの論文を書き上げてから、過去に類似の研究がないか助手に調査させるのである。彼の書いた少なからぬ論文の大半は二番煎じであった。参考文献はほとんどなかったという。▼他人の仕事を軽んじる者に大きな成果は残せない。巨人の肩を引き合いに出すまでもなく、これはもう、いつの時代でもなんの分野でも動かしがたい真実である。人の作品が自分の想像力を損なうなどと考えて孤高を気取っているうちは、既に世の中にある物の劣化版を吐き出す哀れな存在にしかなれない。人間、自分で思っているほど想像力などないものだ。
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