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従軍記者の人生は壮絶だ。銃弾で死にかけては記事を書き、病気で死にかけてはまた記事を書く。生涯に赴く前線の数ということでいえば、本職の兵士以上かもしれない。▼ウィリアム・ハワード・ラッセル。1820年、アイルランド生まれ。1843年に「タイムズ」入社。現代における従軍記者の嚆矢。他人の筆で語られる自伝のようなインタビューを読んでいて、昔、バタイユの本で引用されていたエルンスト・ユンガーの戦争描写を思い出した。▼戦争の記録はいつも恐ろしい。戦争の恐怖を醸すには、グロテスクな筆致など全く要らない。発生した事実を淡々と羅列し、目の前の光景を端的に述べた記録こそが最も恐ろしい。脚色されない生の言葉は、戦争という地獄をそっと私たちの傍へ置いていく。私たちの生きる世界が、呼吸する空気が、生活が、ほんの少しの不穏を帯びるという恐怖。親友の不気味な変化こそ最高の恐怖と述べた安部公房の感覚に近いかもしれない。
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