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「講演をするってことが作家にとっては危険きわまりないんです。やってるうちに、えらそうな賢者ぶりが身についてしまいましてね。初めは、一応のたしなみがあれば、講演はいやだとか何とか言うんですけれども、いずれは自分の声に惚れていくんです。うっかりできませんよ。感性が荒れてきます。人前でしゃべりたがるのは人類共通みたいですけどね。ふだんは臆病な人が、でんと構えたりして。とくに意見なしだったはずが、いざ聴衆を前にすると天下のご意見番になります。」▼アメリカの作家、ウィラ・キャザーが、グランドセントラル駅で列車の時間待ち中、アメリカの作家にとって最大の障壁は何だと思うか、と訊かれて。彼女の答えは、商業主義でも、禁酒法でもなく、ずばり講演病。「何ならやってごらんになれば? 日曜学校とか、身よりのない子供の学級なんてところで、一席ぶつんです。大人物になったような気がしますから。すぐ味をしめます。ご用心。」
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