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「――静寂は人の心に安らぎをあたえ、美しさを感じさせる。音楽はまず、このような静寂を美しいと認めるところから出発するといえよう。作曲家は自分の書いたある旋律が気にいらないとき、ただちにそれを消し去ってしまうだろう。書いた音を消し去るということは、とりも直さずふたたび静寂に戻ることであり、その行為は、もとの静寂のほうがより美しいことを、みずから認めた結果にほかならない。音楽は静寂の美に対立し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことのなかにある。」芥川也寸志より。▼ここで言われる静寂とは、けっして無音のことではない。音楽の終わった状態、つまり私たちの日常において、とりたてて誰も大きな音を発していない状況――それはたぶんに小さな音響の渦を含んでいる――が静寂だ。つまり、静寂を破るものという点では、無音は音と何ら変わりないのである。
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