400
Post/Edit Page
小林秀雄は文芸時評を辞めた後、「省みると何をしていたかわけがわからぬ」と言っている。「人を説得したと自惚れたり、文学を指導したと妄想したりしていたのだからね。四十にもなると自分のリミットというものがおぼろげながらわかってくる。」今まで無茶なことをやっていたと思って呆然とするという小林秀雄に対して、横光利一の答え。「僕はリミットが分りすぎて困ってしまった一人だ。も一度見失ってしまいたいものだ。」▼三十、四十と若さを失うにつれ、私たちは「リミット知らず」ではいられなくなる。一度リミットを知って絶望したら、何かに取り憑かれて我を忘れない限り、もうリミットは超えられなくなる。老いて後のなお弛まぬ前進に必要なのは、努力でも気概でも覚悟でも根性でもなく、無謀な行動が賢明な思考に先立つほどの愚かさであろう。▼進みたいならば賢明であることをやめよう。何をしていたか、わけがわからぬくらいでちょうどよいのだ。
pass:
Draft