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救急車ピーポー来た、と長男が言う。たしかに救急車のサイレンが聞こえてくる。飛行機ブーン飛んできた、と言う。たしかに航空機の音が空から聞こえてくる。一緒になって見上げるとランプを明滅させた大なり小なりの飛行機が雲の手前を飛んでいく。▼救急車や飛行機の音は、私にとっては日常の背景音以上に意味を持たないが、長男にとっては耳を傾けるに値する特別な音である。だから、救急車にしても飛行機にしても、いつも私より長男の方が気づくのが早い。驚くべきはこの聞きなれた音の「聞き落とし力」である。人の脳は、慣れたものには些細な注意すら払えない。▼中級者がいちばん危ないとか、慣れから来るミスは不慣れから来るミスよりも遥かに多いとか、そういう一般論に落とし込める話だが、重要な点は、私が慣れによる聞き落としを長男の存在によって反射的に知ったということである。脳が勝手に落とした情報を認識するには他者の存在が不可欠なのだ。
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