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ルネ・マグリットの「回帰」を写真で見た。夜の中を行く昼の鳥というモチーフである。そう聞いて想像していたようなコントラストは、しかしどこにも無かった。重く甘ったるい、意図的に陰影を避けたようなのっぺりした昼夜の空に、ただ不気味な鳥の輪郭が浮かんでいる。そう見える。▼この画家にとって、昼と夜という現象はもっとも関心のある現象であった。もっとも関心のある現象をしてこういう表現を選んだところに、私はいよいよ画家の暗い側面を覗き見る思いがする。描きたいと思いながら、あまりにそっけない仕上がりになったこれは、希望を託そうとして明るくなりそこなった絵だ。▼「マグリットの描く空は世界の終わりの日の空ではないか」と澁澤龍彦は言った。この絵の画面を隈なく満たしている崩壊の予感は、あるいはそういうことかもしれない。間もなく終末がやってくる。群青の星空を舞う昼の鳥。どこへ急ぐか知らないが、きっとどこにも帰れまい。
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