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「スカース」という語り口がある。≪しゃべるような一人称の語り≫を意味するロシア語で、主語を一人称にして時折呼びかけるような二人称を挟みながら、おしゃべりのような形で展開していく文章を言う。全編がスカースで書かれた小説として、アントニイ・バージェスの『時計じかけのオレンジ』が印象深い。▼語源こそロシア語だが、技法の中心的な発展地はアメリカである。イギリス・ヨーロッパの伝統文学に対抗するための表現手段として、彼らの気質に都合がよかったということだろう。アメリカ文学に会話体の小説が多いひとつの所以だ。▼またスカースは文章技法であって、お喋りをそのまま活字に起こしたものではない。会話をそのまま録音したものは大抵文章として破綻している。似非スカースほど見苦しい文章はない。読んでいるというよりは聞いている気分になるような耳の文章、これもまた文章である以上、やはり作家の丹念な計算と推敲の賜物なのである。
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