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スウィフトは発狂して死んだ。発狂する少し前、梢の先の枯れた樹に自分を重ねて「俺もあの樹のように、頭から参っていくのだ。」と言ったそうだ。芥川はその逸話を聞いて、スウィフトほどの鬼才に生れなかったことを幸福に思った。しかし彼の結末はどうであったか。▼考えすぎは毒だ。頭のいい人間は考えすぎる。考えすぎて毒に中る。そうして頭から腐っていく。しかし人間は、いったい何の必要があって発狂しなければならないのだろう。このような衝動には、何か脳科学的な説明が可能なのだろうか。それとも、単なるバグに過ぎないのだろうか。考えれば考えるほどわからなくなってくる。▼発狂を目的に据えた者さえいた。「私はひとつの新計画を立てています。――狂人となることです。」兄ミハイルに宛てた手紙の中で、十七歳のドストエフスキーはこう書いている。偉大な芸術を成就するには、それしか方法がないとでも言うように――実に不可解な怖ろしさだ。
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