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中国に湘君という神様がいる。洞庭湖に南から流入する大河「湘水」の水神だ。もとはかの伝説の皇帝、堯帝の娘であり、後に舜帝の妻となった二人の姉妹である。舜帝が湖南の巡回中に亡くなったことを悲しんで、湘水に身を投げ水神になった。姉は湘君、妹は湘夫人と呼ばれるが、同一視されることも多く、洞庭湖を扱った李白の七絶では、二人をあわせて「湘君」と呼んでいる。▼この話を知ったとき、どうして水神というものはこう悲しい逸話なしには生じないのだろう、と不思議に思った。フーケーのウンディーネも、笑顔より涙の印象がつよく残っている。人の形したる水神の、悲しみにくれてはらはらと零す涙が素足の傍に落ちる様子は、淋しいくらい静かで悲しい。泣いて泣いて、涙と化した水の神もどこかの国の伝説にいた。何故だろう。水辺には悲劇がまつわるものだからか。それとも、世界中の人間が思い浮かべるもっとも詩的な「水」が、涙だからなのだろうか。
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