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「人体の内部感覚というものは、明瞭には局部麻酔によって、逆説的に知り得るのみである。」アルマン・リボーなる医者が言ったらしい。この人物のことは詳しく知らないが、至言であると思った。というのも、たしかにミュートほど印象的で衝撃的な音色はないからだ。▼私はいつもミュートの使い方が上手い曲に感心する。そうして大抵、その部分をいちばん好きになる。巧みに音を消されたその一瞬に、曲全体のイメージがまざまざと浮かんで来る気さえする。一瞬の空白。あるいはゲネラルパウゼ。そこに全旋律の感覚や感動が明瞭に悟られるとすれば、無音は言わば、音楽の局部麻酔だ。▼削る美学、抜き去る美学というものがある。≪なにもないこと≫は、その極致だ。サン=テグジュペリがこんなことを言っていたのを思い出した。「これ以上付け加える物が無くなった時でなく、これ以上取り去る物が無くなった時こそ、作者は信じ得るだろう――これで完璧だ、と。」
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