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『カラマーゾフの兄弟』を読み終えた。素晴らしい長編だ。例によって上巻はやや退屈だが、下巻の牽引力は比類ない。人と心情と出来事とが、これほど緻密に絡み合っていながら、ちっとも不自然な複雑さを見出せないところも完璧だ。ドストエフスキーの最高傑作と言われる所以がよくわかる。▼ところで「大審問官」は、この作品中もっとも有名な、注目すべき一節としてよく引き合いに出される。イワンの語る、キリストへのアンチテーゼだ。たしかに極めて独特で出来がいい。しかし私はこのレーゼドラマが、我々日本人にも例外なく、評判通りの強烈な印象を与えるとは思えなかった。神はあるかないか、どちらかに決めねば人は前には進めぬ――こういう問題はロシア人にとっては、切実すぎるほどの関心と恐怖を引くに違いないが、我々がこれを実感するには、持っている信仰の種類があまりにも違う。ピンと来なくても仕方ないのではないか、という気がしたのである。
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