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澁澤龍彦『毒薬の手帖』にプトマインという毒薬に関する記述がある。有機体の中のアルカロイドが腐敗すると生成する物質で、和名は屍毒。墓を暴き子供の骨を盗んでいた妖術師や、牛の血を飲むという自殺法に関連があるとしている。「ただし、現在ではその存在は否定されている。」▼そう、現在ではプトマインという毒の無いことは知られている。しかしそうは言っても、まるきり古代の妄想や伝説だったというわけではない。つい最近まで、少なくとも二十世紀の初め頃まで、その存在は広く信じられていたのである。英語ではトーメイン・ポイズニング(Ptomaine Poisoning)と呼ばれ、肉や魚介類による原因不明の食中毒を「プトマイン中毒」と一口で片付るために用いられていた。それが二十世紀になって細菌学が急速に進歩し、症状は似通った中毒でも異なる菌の関与していることが明らかになるに従って、ようやくプトマイン中毒説は徐々に姿を消していったのである。
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