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ドストエフスキー「地下室の手記」を読む。病的なまでに誇張された自意識が、≪地下室の男≫という殻の中と外で織りなす悲劇を、垣間見るというよりはただ眺めている、そういうへんな小説だ。▼この本がドストエフスキーの全作品を解く鍵であるとか、そういう話は全て「解説」に譲ろう。私がとにかくへんだと思うのは、作者も読者も徹頭徹尾≪地下室の男≫を眺めているというこの構図である。第一部で彼が脳髄に思想を叩き上げていく様子も、第二部でそれを現実に試みようとして空回りする滑稽な姿も、私はただ見ているだけだ。▼「彼を見て君はどう思う?」この問いかけを純化するために、作者は敢えて「この手記の筆者は……」と冒頭にメタを挟んだのではないか。「動くな!」と言われた後で、何か悲劇的なものの姿を見せつけられる。だから私は、彼の何に眉をしかめ、嘲笑し、共感しているのだろうと、嫌でも立ち止まって考えなければならなくなるのである。
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