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永井荷風の「ひとり旅」にこんな一節がある。「人にさまざまの模型あるが如く芸術家にも又或るタイプある事を免れず候。数多の人と歩調を同じくし一時代の思想の健全にして公平なる代表者と成り得る芸術家あり。それと共に又如何なる時代にも免れ難き社会の裏面を流るる暗潮に棹さして、限られし思想を深く味う輩も有之候。誰れ彼の選みなく王侯貴族の肖像画作り得る寛大なる画工と、恋せざる限りは如何なる美しき少女の像をも画布には上し得ざるものと有之候。」▼危機的な状況を源泉として表現欲求を汲み、ある時点では先へ進むために必ずパラノイアを要求するような創作生活を送っている人間は、恐らく後者のタイプだ。彼らは偏執狂患者とかなり多くの共通点を持っている。それでいて本物の精神異常に落ち込むことをかろうじて拒否していられるのは、ひとえに表現という手段によって、苦痛を強いてくる外的なオブジェを再表現することができるおかげである。
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