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今冬学期の水曜日は六時十五分からと妙な時間にひとつだけ授業があって、家を出るのも暗ければ、学校の門をくぐるときにはもはや見事な夜である。冬休みも近い今日は通学定期も期限切れで、いつもと違う乗り継ぎにした。正門から入って教室へ急ぐ。ふと足が止まった。▼道がやわらかいな、と思って足元を見たのだった。イチョウである。正門から講堂まで一面に敷かれたイチョウの葉が暗がりのなか暖かい校内灯に照らされて、美しいなどと思うひまもないほど心惹かれる光景だった。吹き抜ける風があんまり冷たくて涙が落ちる。理由はどうあれ涙が出ると人間悲しくなるものだ。寒いと景色はいっそう感傷的に見えるのかもしれない。▼切絵細工のような黒い人影の行き交う道を、誰もいないものと思って十五分ほど行ったりきたりしていた。とっくに授業は始まっている。満ち足りた気持ちで立ち去りながら私は、この≪黄色い時間≫を多分一生忘れないだろうと思った。
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