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古い時代の戦にあっては、突発的な飢饉が戦局をひっくり返すことはままあった。兵糧は言うまでもなく戦闘の最重要課題である。人間は食べなければ存続できない生物機構だからだ。しかし、そんなことさえ忘れられるような狂気の沙汰が現実にあった。▼小松真一は太平洋戦争における旧日本軍の失敗のひとつに、軍上層部が「人間の生物学的常識を欠いていたこと」を数えている。彼ら曰く、兵はみな精兵であり、食料などなくても気力と精神がそれを補うのだ――こういった論理が反駁すべからざる「正論」としてまかり通っていたのが恐ろしい。▼食料不足が兵士たちに与える影響は、体力のみにとどまらない。「栄養失調の人間はすべての細胞が老化するので、いくら食べても回復しない。」すべての細胞ということは脳細胞も老化する。つまり栄養失調状態がつづくと、いずれ正常な判断ができなくなるのである。統率を欠くどころの騒ぎではない。飢えの凄まじさである。
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