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ここ数年、家のまわりでカラスを見ていない。昔はいつもカァカァやっていた気がするのに、いつからあの声がなくなったろう。そういえばミミズたちも知らないうちにいなくなった。大雨の翌日の通学路には避けて歩くのがたいへんなほどだったのに、どこへ逃げていったものか。越してきた頃は都会の一角ながら自然の多い土地だったが、いつのまにかひとつまたひとつ「見なくなったもの」が増える。▼カラスというのは食料の乏しい冬になると凶暴になって、見境いなくモノや人に襲いかかるから、人間にしてみればあまり嬉しい町の住人ではない。いなくなればいいのに、と思う人もあったろう。それが今は裏道にもゴミ捨て場にもいない。なによりカァがつゆほども聞こえないのだから、このあたりにはもう一家族も住んでいないはずだ。さして寂しい感慨もないが、目にも耳にも馴染み深い生き物だけに、あの寒鴉の孤影を思い出すにつけ、行く先で少し探してみたくなる。
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