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「しゃべるように書きたい」と佐藤春夫は言った。「書くようにしゃべりたい」と芥川龍之介は言った。どちらももっともなことだ。もっともなことだから、素直にどっちもやればいいと思う。循環でこそあれ、背反ではない。▼書くとしゃべるが相互に添削しあう関係はなかなか魅力的だ。書き言葉が話し言葉を掣肘すれば、聞き手にわかりやすい筋の通った文章をとっさに淀みなく発声することができるようになるし、語彙の衰弱にも歯止めがかかる。話し言葉が書き言葉を監視すれば、いらぬ美辞麗句を退けて、今の社会に生きる瑞々しい言葉を文章の中で自然に息づかせることができるようになる。▼以前似たようなことを話したとき、しゃべるような文章を書くのはいいが、逆はしゃべりが堅苦しくはならないかね、と誰かが言った。杞憂である。なりはしない。この程度を心がけたくらいでぎこちないしゃべり方になるようなら、そもそも口を動かす訓練が足りないのである。
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