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夢野久作「氷の涯」を読む。日本探偵小説全集に収録されている中編で、へえ、これが探偵モノなのか、とちょっと意外な思いのする筆致。結論から言うと、その筆致から直接感じる雰囲気の方が小説全体の持ち味としては正しくて、探偵小説としては些か物足りないところがある。後半の急展開からは少々ついていくのにたいへんで、結局、思っていたのとはだいぶちがった形で着地した。▼生来氷が大好きな性分で、「氷の」だとか「雪の」だとか見るとそれだけで食指の動いてしまう氷物好きだが、そんな題の味は見事に活かされていると思う。ラストの美しさは比類ない。それだけでもう一切の不満は吹き飛んでしまう。感動的だが決して感傷的ではない、その吸い込まれていくような冷たさに、読者は皆、きっと悲観的になどなれないだろう。そうして上村一等卒の、最後の言葉通りになっていても、ちっとも不思議でないというような、そんな気持ちになっていることだろう。
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