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「私のかけがえのなさの起源は、ペットのかけがえのなさと同じである。」これはたしか保坂和志の言葉だった。『小説の自由』あたりで読んだ文句と記憶している。そうして読んだ当時、非常に共感した覚えがある。たしかにその通りだ。▼しかし私やペットに限らず、なんでもそうではないだろうか。どんなものでも、それをかけがえのないものだと心の底から思うとき、それはなぜかと納得行くまで自問して突き詰めてみると、とうとう付き合ってきた時間が長すぎるということ以外に、たいした理由がみつからないことに気がつく。▼論文だってもちろんそうだ。いいかげんにやっていた人ならともかく、生活の多くの時間を割いて、二年の月日を付き合ってきた研究であればこそ、やはりかけがえのないものだと感じるのである。そう思ってみれば、体裁まで仕上がった完成品としての論文は、たしかにペットみたいなもんさ――手放すのがちょっと惜しくもなるというわけだ。
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