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スピノザは『知性改善論』でこう述べている。「全くのところ、愛さないもののためには決して争いも起らないであろう。それが滅びたからとて悲しみもわくまいし、他人に所有されたからとて嫉妬も起るまいし、何らかの恐れ、何らかの憎しみ、一言でいえば何らの心の動揺も生じないであろう。」▼愛着こそすべてに先立つ心の基礎であると信じる私の信念を、長きにわたって裏打ちしてくれた言葉である。今、これだけ見れば平凡な言明にも思えるが、それでもこの言葉が私の心に残りつづけて来たのは、着地点が非凡に思われたからだった。▼結びにはこうある。「実にこれらすべてのことは、我々がこれまで語ってきた一切のもののような、滅ぶべき事実を愛する時に起るのである。」しかし人間は、現実に在って宿命的に滅ぶべき何かに思いを仮託しなければ生きていけない生き物だ。それ故に、人は愛着の奪い合いから逃れられないのである。実に簡明化された真理と思う。
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