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ある日、場外馬券場でこんな会話が起こった。「溜めて溜めて溜め込むか。それで『直線伸びが足りませんでしたね』だもんな」「豊のコメントはいつもそつがないからね」「そつがないか。そういえば、そつがないのは如才ないのとどう違うんだ」▼日本国語大辞典を参照すると、どちらの用例にも荷風の文章が載っている。偶然とは思うが、比較にはちょうどいい。「土地の老妓を呼集めてよろしく頼むぜと云ったようなソツのない仕方(腕くらべ)」「世慣れた人の如才ない挨拶としか(すみだ川)」▼さて、どう違うか。「そつがない」の方はなんとなく「うまくやってのけた」といったような雰囲気がある。抜け目のなさ、手落ちのなさである。一方「如才ない」は「世慣れた人の」とあるように、隙がないというよりは「体よくこなした」という具合が勝っている。等閑にしたところがなく、気がきいて調子のよい感じである。豊のコメントは、そつがないというべきだろう。
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