400
Post/Edit Page
「お父さま、判ったよ。この本、初めのブーンから終りのブーンまで、自分という人間が何であるかということを書いたもんじゃろう。二重、三重、いろいろのものにとらわれている人間というもの、人間の意識、そのとらわれているものを除いての人間とは何か、が書いてあるんじゃろう」▼杉山龍丸は、父である夢野久作から「ドグラ・マグラ」を手渡されると、丸二日間これに没頭した。耽読の果てに辿り着いた答えを告げると、夢野久作は「なんや、おまえも判ったか?」と言ってがっかりしたという。▼がっかりしたというのは何となく面白い。これほどの多面的側面を持つ作品なら、どうとでも解釈のしようがありそうなところへ、このエピソードがひとつの焦点を作っている。そうして「一人の人間の尊厳というものを、一人の人間そのものを通じて、終始一人称で描き出した」という末永節の言葉は、この焦点にかなり近いところへ像を結んでいるように思えるのである。
pass:
Draft