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深夜の街道。閑散とした交差点を、空車のタクシーが猛スピードで左折して行った。先にあるのは巨大な森林公園である。あの道を行ってもどこにも出ない。森へ分け入るばかりのはずだ。何があったか皆目見当もつかないが、小説じみた不気味な興味を駆り立てられる。▼この森林公園には、少々個人的な因縁がある。とある日の夕方、散歩を兼ねた遠くからの歩き帰りに、近道と思って入り込んだ。登って降りる森の丘道である。けれども日はあっという間に落ちて、登りつめた頃にはすっかり暗闇に包まれてしまった。灯りの無い夜の暗さは現代人の想像を遥かに超える。▼このとき真に恐ろしかったのは、暗いことよりも「自分の声が届く範囲には人がいない」という考えであった。それが意外だった。最初の街灯も慰めにはならない。とにかく声の届くところへ、そんな気持ちで汗だくになって走ったのを覚えている。見知った道に行き着いたときには、心底ほっとしたものだ。
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