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「夢見よかと入りて汗を悲む所へ、秋まで残る蛍を数包みて禿に遣し、蚊帳の内に飛ばして、水草の花桶入れて心の涼しき様なして……」西鶴の『一代男』にこんな一節があるそうだ。なんとも羨ましい情景である。禿は「かぶろ」と読み、肩ほどで切り揃えた子供の髪型を指す。ここでは多分、そんな髪型をした遊郭に住む童女を言うのだろう。▼蛍を蚊帳に放つという趣向は、日本ではそう珍しくもない夏の風流である。柴田宵曲は『古句を見る』の中で、蛍と蚊帳に寄せて次の三句を集めていた。鶴声「飛ひかりよわげに蚊帳の蛍かな」、蕪村「蚊帳の内にほたる放してアヽ楽や」、喜舌「子を寝せて隙やる蚊帳の蛍かな」▼半袖を着て蚊に刺されて、掛け布団もぐっと薄くして、ちょうど夏気分になったからこんなことを言い出した。哀しいかな、蚊帳どころか蛍も見ない都会だから、なかなか季節気分も味わいにくい。こうして句に想いを廻らせるのも、せめてもの情緒である。
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