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「鳩は軽快に空気中を飛びまわる。けれども空気の抵抗を感じるので、真空の中でならもっとうまく飛べるのにと考えるかもしれない。しかしもし空気がなければ、うまく飛べるどころかそもそも飛ぶこと自体が不可能になるであろう。」▼『純粋理性批判』を読んで私が手元に書き取ったのはこの一節だけだ。他のことは忘れてしまった。当時、読みながら電車を降りたせいで借り物のノートパソコンを網棚に忘れたほど没頭していたような気もするが、そのわりに身は入っていなかったのかもしれない。とにかくこの一節だけが手元に残った。▼数年たって今日、嬉しいことがあった。小林秀雄が「伝統」のなかで同じ箇所を引用していたのである。彼もそうそうカントなど引く人ではないから、この一致は稀有なことだ。またひとつ周波数の合っていることを確認できて、ただそれが嬉しいのである。偶然のお揃いに運命を感じるありがちな話。ただし向こうは嬉しくもなかろうが。
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