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埃をかぶった真っ白なデザインノート。五年前くらいの品物だろうか。はじめの頁には左隅に「夏目漱石」と殴り書き、どこかで見たことのある文が無造作にならべてある。「自然とくぼむ二畳ばかりの岩のなかに春の水がいつともなくたまって静かに山桜の影をひたしている。」これは草枕だろうか。雰囲気はそれらしいが、出典は書いてない。▼文章も作品も格別これが好みというものはないが、なんだかんだで感心しながら文学論から日記まで読み通したのはひとえに漱石先生の人柄によるものだろう。そういえば当時は漱石先生と口でも呼んでいた。▼漱石を先生と呼ぶ人の作品ばかり読んでいたからだ。しかしふと、中勘助あたりは漱石にあんまり関心がなかったなと思った。自分はいっこう漱石の作品に興味が湧かない、けれども人としてはきらいじゃない、たしかそんなようなことをどこかの随筆で書いていた。これも気がするばかりだ。古い記憶はことごとく曖昧である。
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