400
Post/Edit Page
優れた道具にはたいてい穴があいている。もうすこしちゃんとした言い方をすれば、内部に空間を持っている。身のまわりの道具を見回してみよう。椅子にも、爪切りにも、ペンにも、それぞれ構造のどこかに空間らしいものがある。「皿」でさえ上部の空間を意識させるものだ。これが矢尻や石斧など原始的なものになると、次第に空間的な部分は少なくなっていく。道具はせいぜい応用の利く「物」になる。▼物を応用することと、道具を製作することのあいだの飛躍はここにあるという気がする。道具生成とは、独自の有益な空間を創りだすこと、つまり「無」を「空」に変える試みだったのではないだろうか。「空は完全な無と混同されやすいが、実際には無限の可能性を蔵している。」こう鈴木大拙は言っている。可能性とは、高次の推論を立てられる生物にのみ意味のある概念だ。道具を創ることは、空間という可能性を創り出す、古代人の知的な遊びだったのかもしれない。
pass:
Draft