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「閭は小女を呼んで、汲立の水を鉢に入れて来いと命じた。水が来た。僧はそれを受け取って、胸に捧げて、じつと閭を見詰めた。……」▼森鴎外のこの一節を『文章読本』で三島由紀夫が絶賛していた、それをよく覚えている。漢文のセンスは描写に切れ味を出すというが、三島が就中絶賛する「水が来た」という一句などはまさしくそれであろう。こういう漢文的教養に裏打ちされた「簡潔で清浄な文章」こそ、鴎外の文章のほんとうの味であるという。▼「これが一般の時代物作家であると、閭が少女に命じて汲みたての水を鉢に入れてこいと命ずる。その水がくるところで、決して「水が来た」とは書かない。まして文学的素人には、こういう文章は決して書けない。このような現実を残酷なほど冷静に裁断して、よけいなものをぜんぶ剥ぎ取り、しかもいかにも効果的に見せないで、効果を強く出すという文章は、鴎外独特のものであります。」心掛けるだけでも、引き締まる。
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