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編集者は三十五年でオシマイだ。諸君、うちの専務は佐々木君ひとりで充分なんだ。君らがいつまで居たって佐々木君になれるわけじゃない。とにかく早く辞めたまえ――文藝春秋社の社長を務めていたころ、菊池寛は若い社員にいつでもこう告げていたという。「とにかく早く辞めたまえ。」社長にしてこういう言葉を公言するのが、流石は人柄で鳴る菊池寛である。▼「諸君才能があるなら、社を踏み台にして、ほかへ行ってくれ。ここは踏み台なんだから……。」謙遜やお為ごかしで言うわけでもないのだろう。仕事の手が広げられないとき、人ばかり増えても仕方がない。折しも週刊誌興隆の時、作家崩れの編集者志望は山ほどいた。山ほどいるのに人が辞めなきゃ、新人を容れる謂れがない。ならば編集以外の才能持ちはさっさと自分の道へ行けばいいじゃないか。こういう素朴な感想なのだ。転石賛美の風潮が訪れた今の時代、菊池寛の思惑はいまいちど熟考してみるに足る。
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