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小林秀雄曰く、作家志願者の最大の弱点は、なによりも文学に誑かされていることだという。学殖をひけらかすようなペダントリーのことを言うのではない。「文学の世界から世の中を眺めるから文学ができるのだ」という勘違いを戒めているのだ。そうじゃない、逆なんだ、文学など知らない純粋な人間の眼が、ある時ある特別な感慨とひらめきをもって世界の姿を見たときに文学が出来るのだ。文学が出来てから文字に起こされて、そうして文学作品になるのだと。▼誑かされると何もかも見えなくなる。事の本質はますます見えなくなって、見えなくなるから、批評の方言ばかりが達者になっていく。「文学に憑かれた人には、どうしても小説というものが人間の身をもってした単なる表現だ、ただそれだけで充分だ、という正直な覚悟で小説が読めない。巧いとか拙いとかいっている。何派だとか何主義だとかいっている。いつまでたっても小説というものの正体がわからない。」
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