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「筆は一本、箸は二本」という言葉がある。斎藤緑雨の言葉だ。稼ぐための筆は一本しかないのに、食べるための箸は二本ある。どうして稼ぎの追いつくはずがあるだろう。こう作家の貧窮を皮肉る言である。全文はこうだ。「按ずるに筆は一本也、箸は二本也。衆寡敵せずと知るべし。」▼斎藤緑雨という人は生まれながらの詩人であったらしい。その毒舌と皮肉に富んだ軽妙でユニークな物言いは、バーナード・ショウを思わせる物がある。上田万年がこんなことを言っていた。「或時、斉藤から珍妙な手紙を貰ったことがあるんだ。巻紙の初めが拝啓で終りが草々と来るのに別に変りはないのだが、肝心の本文に当る場所には何も書いてない。まん中が白紙なんだよ。」どういう意味だかわかるかい、と訊かれ、若かりし頃の辰野隆がしばらく考え込んでいると、万年先生は笑いながらこう言ったという。「用件は言わないでも判ってるだろう。『金を貸して呉れ』という手紙さ。」
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