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寿司屋へ行くと湯呑に魚の漢字が書いてある。子供の頃、あれを注文の待ち時間に眺めているのが好きで、一通書けるようになるまで覚えてしまった。鰍、鯔、鱧、鮗……なぜハタハタは魚の神様なんだろう、などと不思議に思った記憶がある。▼さて、ついこのあいだ久しぶりに回らない寿司屋へ行って、ようやく魚湯呑にめぐりあった。食べ放題は来るのが遅い。懐かしい待ち時間に湯呑をくるくる回していると、知らない漢字が出てくる出てくる、書くのはおろか読むのも怪しい体たらくで、ほとんど忘れていたのには我ながら閉口した。▼まったくもって言葉も刺身と同じナマモノである。どんどん鮮度は落ちていくのだ。漢字に限らず日ごろから使い慣れていると思う言葉でも、言うことも書くこともなくなって忘れられた言葉は、意識しているよりもずっと数多くある。定期的に辞書を読みたくなるのはそのためだ。新しい言葉を知りたいのではなく、思い出したいのである。
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