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その昔、ロンドン近郊にグラブ・ストリートという通りがあった。そこには名声を渇望するものの、さっぱりうだつのあがらない作家や詩人たちが集い、しょぼくれた出版社と本屋が彼らの本を細々と扱っていた。ローエンドな芸術家たちの小町である。▼多くのローカルなコミュニティがそうであるように、グラブ・ストリートもまた、蔑称であると同時に三文文士たちにとってはユートピアでもあった。グラブ・ストリートがグラブ・ストリートである限り、当世を代表するような名作家が現れて、彼らの世界を踏みにじるようなことはありえないのだ。日の目を見ない創作生活のうちにも、小さな内輪の楽しみがあったに違いない。どこか我が身の境遇を思わせる。▼この通りはもう存在していない。しかし”GrubStreet”という単語は今でも、三文文士連や他愛ない作品を指す言葉として辞書に残っている。hack writersとその世界――若干、軽蔑的な響きのある言葉ではあるが。
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