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泉鏡花「作物の用意」は短いが鏡花の創作態度を凝縮した掌編である。現代の風潮はどうあれ自分は書きたいものを書くだけだ。好いたものでなければ興味が湧かぬ。興味が湧かなければ胸中に幻想することもできないから、人物を書こうとしてもついに其の人にはならないだろう。こういう考え方がいかにも鏡花らしい。想像上の人物を自由に遊ばせていくことで作品を創るタイプの作家は、いつの時代でも世間や文壇の風潮に阿らない傾向があるように思う。▼人物でもなんでも、心にしかと幻影を思い描くことができれば「私が日頃みて居る以上によく描けると思ふ」と鏡花は言う。洗練された想像は現実を凌駕すると、はっきり言っているのである。現実に旅をしなくても、絵葉書を眺めて千枚の小説を書ける作家の心意気だ。幻想作家としては当然のことかもしれないが、小説は現実の切り抜きと信じてリアリティばかりを追究していると、なかなかこういう覚悟には至れない。
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