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絵でも音楽でも骨董でも、鑑賞眼の教育は一流品ばかり見せることから始まるという。二十世紀以前の名立たる芸術家に貴族のお坊ちゃんやお嬢さんが多いのは、幼少時から一流品を眼に耳にすることが多かった、そういう環境のせいもあるのだろう。▼「いいものばかり見慣れていると悪いものがすぐ見える、この逆は困難だ。惟うに私達の眼の天性である。」小林秀雄の言葉である。シェフなどはこの手の教えを遵守するそうだ。悪い物を食べればそれだけ舌の利きが悪くなる。古今東西のいいものを食べ歩くことが即ち修行なのだ。▼しかし逆の例も聞いたことがある。冨樫義博は修行時代、とにかくB級C級の映画を観るように編集から勧められ、実行していた。そうして百、二百と数を重ねるうち、どこにどう手を入れたらその作品がもっと面白くなるか、勘所が見えてくるようになったという。悪所から学ぶこともある。どちらの態度が正しいか、一概に言えない所以である。
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