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仕事なんかなければいいのに。趣味の作家はいつも嘆いている。「読書は閑暇なくては出来ず、いはんや思索空想また観察においてをや。」それでも喰うためには働かなければならない。生活のためには、どんなにまっとうな仕事でも、人生、七分の五は返上しなければならぬ。「されば小説家たらんとするものはまづおのれが天分の有無のみならず、またその身の境遇をも併せ省ねばならぬなり。」▼金がないなら仕事せよ。仕事に従事することも、また小説家への正道である。「一たん正業に就きて文事に遠ざかるとも、やがて相応の身分となり幾分の余裕を得て後再筆を執るも何ぞ遅きにあらんや。平素その心を失はずば半生世路の辛苦は万巻の書を読破するにもまさりて真に深く人生に触れたる雄篇大作をなす基ともなりぬべし。」古今東西の文豪も「一代の文豪終生唯机にのみ向ひゐたる人にはあらず。」これをランティエの荷風が言うのである。いよいよ複雑な気持ちになる。
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