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最高の小説にはどこかに「忘れられないひとこと」がある。そうして思い返してみると不思議なことに、それは必ずしも格好いいことを言っていないし、独創的な哲学を語っていないし、美文名言でもないし、まわりの流れと調和してすらいない。けれどもたしかに記憶に残っている。こういうものを私たちは仕方なく「印象的」と呼ぶ。▼優れているものはなぜそれが優れているのか、ちゃんと分析してみればすぐにわかるが、印象的なものはなぜそれが印象的なのか、いくら考えてみてもわからないことが多い。強烈な存在感、訴えかける何か、非凡なオーラ……言うに窮して、曖昧な言葉をならべていく。どれも正しいようで、しかし役には立たない。▼食いしん坊は言う。「この世には食べられるものと食べられないものの二種類しかない。」これに倣えば世の中には、印象的なものとそうでないものの二種類しかない。そうして、印象的でないものから順番に、忘れられていく。
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