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大きな物語の中に、小さな物語。このような入れ子構造を、文学批評用語でミザナビームという。「深淵に入る」という意味のフランス語で、もともとは大きな盾形の紋地により小さな盾形の紋地が描かれている紋章のことを差した、紋章学の用語である。▼外側の構造とよく似たものが内側に含まれている二重構造の物語は、シェークスピアの『ハムレット』やアンドレ・ジイドの『贋金つくり』など有名どころにも多くあり、それらは入れ子構造であることに物語としてのれっきとした意味がある。しかしこれが三重、四重となり無限後退するようになると、しだいに眩暈遊びの色が強くなる。合わせ鏡を眺めているときの、あの感覚を模すようになる。▼実際、ミザナビームという言葉は、脱構築批評ではシニフィアンの戯れからくる意味の不安定性による眩暈を表現するために用いられるのだそうだ。入れ子は常に眩暈の感覚を伴っている。まさしく、深淵を覗き込む眩みである。
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