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明確な概念にならない漠然としたイメージを、現実の身近な物に託して語る。ならんだ言葉の数々は、なんとなく自分の言いたいことを表現していそうだ。そうして込み入った心理の輪郭を描き得たと思い込む。聞かされた方は聞かされた方で、まるでわからないなどと言うのは申し訳ないから、なんとなくわかると相槌を打つ。どうやらうまく行ったらしい――悪循環になる。▼複雑なものを正確に語る義務がないとき、あんまり複雑だから少しくらい誤魔化してもいいだろうと、表現者は容易に嘘を付く。小林秀雄は言う。「どんなに複雑であろうとも、孤独な人間の心理を描出するのは容易である。なぜかというと、人間が自分の錯雑した心理を表現する術を知らない時、而も好都合にも外部からその表現を強いるものがない時、彼は夢を見ていると同然だ。彼の行為というものが問題ではないのだから、この場合、彼を取扱う作者は、又彼同様に、夢見心地で文字を織ればよい。」
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