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上田万年は幼い頃から斎藤緑雨と付き合いがあった。少年時代は回覧雑誌をつくり遊んだ仲だという。そんな上田万年に、あるとき辰野隆がこんなことを言った。「先生もかつて一度は文学少年だったのですね。」万年先生、愉快そうに笑ってこう答えたという。「こう見えても、いまだって文学老年なんだぜ。」▼芸術は子供の頃にしか成らない。青年の頃にしか磨けない。社会に出れば時間もなくなる。歳を取れば感性も古くなる。「もう遅すぎる。」――いまだって文学老年なんだぜ。これは、そんな溜息をひといきに吹き払う痛快な言葉である。▼文学少年でありたかった、文学青年でいればよかった、そんなことを言っているうちは文学壮年にも文学老年にもなれない。今、そうありたい人だけがそうありうるのだ。こんなことにも興味があったけれど、という過去への羨望は、今の自分にも夢があふれているようで心地良い、が、その夢を見るために現在の時間を捨てている。
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