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帰路。今宵の月は皓々として秋らしく見事に美しい。しかしその月から目が逸れてしまうほど珍しいものを傍に見た。途方もなく細く、長く、はっきりとした飛行機雲。▼自然の雲ではないだろう。西の山から東のビルへ、南の空を真一文字に切り裂いて、くっきりとした輪郭にムラもなく、すうっと極細に伸びている。ほかにはひとつも雲がない。青褐色の背景、白い一条、皓々たる月。これで夜空のすべて。▼ずっと見上げながら歩いてきたたが、あんまり素晴らしいので写真に撮ろうと、家の前でスマートフォンを傾ける。かしゃりとやると、手がブレたらしい、月光が太い筆を押しつけたように尾を曳いた。撮り直そうと思ったが、眺めてみるとこれはこれで面白いので、そのままポケットに仕舞う。気分物は撮り損じたらそれまでだ、とも思うのだ。一息ついて、ベッドで出来損ないを眺めてみる。こういうものを芸術と呼びたくなる前衛芸術家たちの気持ちが少しだけわかる。
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