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二十三時。会社の屋上へ出て、三人で皆既月蝕を見た。非常階段をあがり寒い風の吹きぬける屋上で見上げたときには、もう右下に鋭い光の縁を残して月全体が鈍い影色に染まろうという頃で、もう少しでなくなる、もう少しで、と五分ばかり言いつづけていた。マイクロソフトのプログレスバーみたいだ、と誰かが言った。「仕方ない、プログレス側はクロージングにかかる時間にまで責任は持てないんだから……。」「そのうち少し戻ったりしてね。」▼心配をよそに、まもなく月は光らなくなった。紫の夜空に浮かぶ巨大な物体は、今まで見たことのない色をしていた。私はそれを、落ちかけの線香花火みたいだと言った。隣は、醤油をかけた卵みたいだと言った。もうひとりは何も言わずに石畳みの上へ大の字に寝た。数十秒、みんな黙って頭上を見ていた。こうしてみるとほんとうにただの石ころだ、石ころが遥か頭上に浮いているんだ、ひとりそんなことを考えつづけていた。
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