400
Post/Edit Page
二人が同時にしゃべったら、何を言っているかわからない。三人なら尚更だ。たとえ時々声の被るような激しいディベートの場でも、複数人が同時に声を立てるシーンというものは少ない。同時に喋るのは、相手をやりこめるときだけだ。それとて聞く人には不快に違いないだろう。そう考えると、音楽に言う「斜進行」の価値が少し見えてくる。▼片方の声部が保留されているうちにもうひとつの声部が動くことを斜進行という。反進行とならんで好まれる進行の基本だが、会話の例を考えれば、なるほど一人が喋っているときはもう一人が黙ってあげるという他の独立を尊重した気遣いであることがわかる。聞く人にも聴きやすい。▼ここでは彼女が喋ろう、彼は黙ろう。こうしたリズムの補充的な推敲はやがて係留やシンコペーションを生む。そうして緊張感がもたらされ、弛緩が求められ、抑揚群が形成され、全体の統一感が意識され――まとまりのあるひとつの曲が出来ていく。
pass:
Draft