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アントニオ・ストラディバリは天才だった。彼の制作したバイオリンはどれも三百年の歴史に残る名作となった。けれども工房の寿命は短かった。弟子は誰ひとり、彼の天才を受け継ぐことが出来なかったのだ。一挺・数億円の楽器を生み出す稀代の工房は、ストラディバリの死とともに滅んでしまった。▼弟子の中には息子も二人いたという。技の伝授をためらったわけではあるまい。彼は惜しみなく、教えられることは何もかも教えた。しかし重要なことは全て、教えられないことの中にあったのだ。天才の暗黙知は、天才自身の努力にも関わらず、ついに伝承されなかった。発見には次の天才を要するだろう。▼彼のような天才に限らず誰でも、自分の成功を説明することは想像以上に難しい。私の成功はこれに由来しているだろうと思うものが、ほとんど的外れであったりする。過去の栄光の分析は、ときに危険なのだ。ましてそこに立脚して、次のことを成そうとしているなら。
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