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夕方。電気を消して、カーテンを閉めて、暗い部屋の中、フローリングの床に背中をつけて大の字で天井を見上げていたら、急に部屋が小さな箱に思えてきた。私の周りを取り囲む壁から「家」という名前の纏う立派さが剥ぎ取られて、ただの薄汚い直方体の容れ物になる。気の進まない引越しをしてきたばかりのときの、がらんとした空間を見て、こんなところで生活するのかと絶望するような、あの感覚に近い。▼建物は、そこに包まれている人の思考を左右することがわかっている。人の思考、感情、感じ方……どこへ行きたくなるか、何を見たくなるか。凄腕の建築家は、かなり細かいところまで鑑賞者の心を操作できるという。建築は作者の思い通りに楽しまれ、その結果として名建築に感じられるのだ。床に寝て天井を眺めるというのは、そういう誘導を振り切ることでもある。絵を裏から透かして見るようなものだ。意味のあやふやになった家は、だから、こんなに寂しい。
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