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ベートーヴェンの月光ソナタを聞いて、月光という題も知らぬ人が、なんだか青白い夜の森を全力で駆け抜けていくような曲だと言った。▼終電を失くしたので、朝まで同僚と飲んでいた。始発まで五時間、取り留めのない、淀んだ、退廃的な時間。明け方にはもうあんまり眠くて、ときどき何もしゃべらない三分や五分があった。そういうときは、流れに任せて楽しく沈黙を舐めていた。表情しかやりとりするものがない時間。だらだらという音がよく似合う。▼外に追い出されても夜はまだ明けきらず、見上げた空に鋭い光の金星が見えていた。こんな学生のようないいかげんな時間の過ごし方を、いくつになっても出来るといいのだけれど。でも、体力がついて来なくなるのかな。そういえば、飲み屋のおじさんたちは、すぐに酔いつぶれるか、寝るかしてしまうね……。速度の遅い会話のあいだを、心地良い朝の風が流れていく。青白い空。月光ソナタを聞きながら帰路についた。
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